ブナの原生林を歩くのが好きだ。
今年もブナの山にいる大好きな生き物に逢いたくて、スケジュールの合間を縫って車を走らせた。
ブナについて
ブナは温帯の落葉広葉樹であり本州〜九州まで幅広く分布している。
本州では600〜1600mほどの標高に生育し、山地で普通に見る事ができる。
現在では、伐採や開発によって分布が断片的なものになっているが、本来日本の山地にはブナが深く覆っていたはずだ。
僕がブナの山を愛してやまない理由は、森の豊かさにある。
木に目を向けると大好きなクワガタをはじめ、多くの昆虫が生息する。ブナのドングリはツキノワグマの好物として有名だ。
ブナの落ち葉の層は土壌動物や微生物の住処となり、養分たっぷりの水が川下へ流れる事で川や海を豊かにする。
また、ブナの森は保水力が高く、時間をかけて多くの水を流域に供給する。
その為、源流域の渓は毛細血管のように沢山の支流を持ち、細くなっても脈々と続く。
ブナの森に生きるイワナは、栄養豊富な豊かな流れの中で逞しく生きている。
パックロッドと虫捕り網を持って山へ
僕がブナの山に入る時は一日がかりだ。
特に晩夏〜初秋にかけては忙しい。僕の大好きなヒメオオクワガタが発生する時期だからである。
ヒメオオクワガタは標高1000mを越えるブナの山に生息し、成虫が付く木は、ブナの森の中のヤナギ、ダケカンバ、ブナの幼木など。
ヒメオオクワガタのオス
ヒメオオクワガタは高標高に生息するため、木に傷をつけて樹液を出すカミキリムシやスズメバチが少ない事から、自ら枝に傷をつけて樹液を吸う能力がある。
高山のブナの森に棲む、とても魅力的なクワガタだ。
登山靴を履き、ザックの中には携行食や水、釣りや採集道具、カメラなどを詰め込む。
ブナの山は標高が熊の生息エリアと被っている。熊鈴など熊対策も欠かさずに。
ヒメオオクワガタを発見
ヒメオオクワガタは昼行性で枝先にいる事が多い為、ルッキングで探す。
私は視力が1近くあるが、度付きの特殊加工の眼鏡でブーストをかけ1.5まで上げている。
徐々に高度を上げて行くと1300m付近の柳の木の樹上にクワガタを発見。
木の幹の太さに合わないクワガタが止まっている。毎年見てきた光景だが、まるで小学生の夏に戻ったかのような興奮を覚えてしまう。
プロトタイプの網を取り出して捕まえる。
6mある振り出しタイプのシャフトを伸ばしていく。1番ドキドキする瞬間だ。
無事にキャッチ!
やや大顎の短い個体だが、今年初物。大好きなクワガタに今年も逢うことができた。
胴体に対してとても脚が長い。細い幹を抱えるように掴まるため、このように進化したのだろう。
今年の夏は非常に暑く、ヒメオオクワガタの発生は遅れているようだ。
例年なら木々に沢山あるはずの食痕はまだ少ない。
はじめて標高2000mを越える場所でヒメオオクワガタを発見した。(高度計がマイナス150m程ずれている)
気温が高すぎる為、涼しい高標高の場所に発生している様子。
ヒメオオクワガタのペア
例年だと夏の終わりには沢山のヒメオオクワガタが観察できる。
このような環境がいつまでも残っていて欲しいものだ。自分の息子ができた時に「父ちゃんの若い頃にはこの山の木にはクワガタが鈴なりになっていたんだぞ」なんて言いたくない。
大きさも様々
せっかくなので、このブナの山に棲む他のクワガタも見ていただきたい。
オニクワガタ
ヒメオオと同様に高山のブナ林に棲むクワガタ。
成虫は殆ど餌を食べず、ブナの朽木などで見る事ができる。3cmに満たないような小型種だが、反り返る大顎がかっこいい。
ミヤマクワガタ
言わずと知れた高山のスター。茶色を帯びた体色に金色の毛、胸の張り出し…なにをとってもかっこよすぎる。
アカアシクワガタ
ヒメオオと同様にブナ林に生息し、ヤナギやダケカンバの若木の樹液を吸う。
低山でも見れたり、コナラの樹液を吸っているところも度々見る。ヒメオオより環境に融通が効くようだ。
沢に入る
ぐんぐん高度を上げているうちに、遥か谷底にあった川が眼下まで盛り返してきた。
途中いくつもの滝があったのだろう。
入渓しやすい場所を探し沢へと降りる。
目の前の溜まりでは早くもイワナが餌を探し回っている。
はやる気持ちを抑え、パックロッドを繋ぎ竿を振る。
早々に勢い良く魚が飛んできた。
バエマス30に入れて撮影
ブナの森が育んだ良い水、そして餌が豊富なせいか、冷やした手の中にいるイワナが力強い。
バエマス30に入れて、観察しながらカメラを向ける。
次々とルアーにチェイスするイワナに癒される
イワナは個体ごとに魚体や模様に特徴があって面白い。
この魚はサイズの割に老成魚感がある顔が大きめの子。
昆虫も頻繁に食べているのだろう。
水面系のルアーへの反応も非常に良い。
ものの100m程の遡行で、充分に満足し退渓した。
ブナの山は偉大である。
私のフィールドは広く浅くではあるが、山〜川の源流域、深海までと幅広い。
そんな中で山、海、川は繋がっていると感じる。
ブナの山で遊ぶ楽しい休日だった。
下山してテントに戻ろう。沢の水で冷やしたビールが待っている。
執筆者 木村紘大
海・山・川で生き物を追いかける外遊びの人。15歳から海辺の家で一人で暮らし、19歳の時に初アマゾン河を経験。カヤック、釣竿、網を持って国内外の水辺や山を歩きまわる。
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